書評:歩いて学ぶ都市経済学

歩いて学ぶ都市経済学』を著者からご恵投いただいた.装画がとても魅力的で,開く前からとてもワクワクする.イラストレーターは noa1008 さんという方らしい.

素晴らしい本だ.もともと連載コラムであったこともあり幅広いトピックを扱っているので,誰でも自分の興味にかするような章があるだろう.多くの章が,身近な都市を歩いてみたとき見える風景の叙述から始まる.(歩かずに新幹線や飛行機に乗っていることもある.)そして,都市の風景が経済学的メカニズムがいかに立ち現れるか,それがどのように定量的に確認されてきたかを,著者らの研究や最新の研究から生き生きと描き出している.都市と経済に興味のある誰が読んでも得るものがある本だと思う.

文章は平易であるが,本書の特徴は観察データからどのように効果を検証するかの方法論を都市というセッティングで比較的詳しく解説している点である.従って,本書を隅々までしっかり味わうためにはやはり経済学の基礎知識が必要だろう.一番フィットするのは,経済学部の学部生などだと思われる.本文 167 ページに対して実に 59 ページの付録があり,学習をサポートしている.付録 A〜C では都市内モデル・地域間モデル・研究デザインについて,簡潔ではあるが要点を押さえた説明が与えられている.特に 28 ページある付録 C 「因果効果を知るための研究デザイン概説」については,著者らが特に強みとする部分でもあり,都市経済学の例に引き寄せたわかりやすい解説がまとめられている.付録 D には全般的な都市経済学の学習ガイドがあり,主要な書籍が押さえられるとともに,標準的な都市経済学理論の構成に対して本書のトピックがどのように対応づけられるかも議論されていてこれまた有用だ.

他分野の研究者にとっては,都市関係のトピックを知るうえでよい導入となりそうである.本当に網羅的に話題を知りたければ著者らも紹介している ハンドブック を読めばよいが,本書がカバーしている話題については大部であるハンドブックを繙く前に基本的な考え方を手短に知ることができる.本書は,下敷きとなっている理論の全体を体系的にカバーする目的の本ではないため,付録 D に紹介されているような標準的な教科書・専門書と一緒に揃えることになるだろう.

ところで読者が限られそうだが,対応するような,もう少し理論にフォーカスして最新の研究をまとめた和書が欲しいなと思った.自分で書けという話かもしれない.